女王陛下の007

女王陛下の007

あらすじ
 宿敵ブロフェルドを捕らえることを目的としたベッドラム作戦を遂行中のボンドは、ポルトガルで偶然トレーシー(テレサ)という若い女性と知り合った。美しく、そして車の運転やギャンブルなどで大胆な行動力を見せる彼女に、ボンドは興味を抱く。

彼女は犯罪組織ユニオン・コルスのボスであるドラコの一人娘だったが、不安定な生活を送る彼女の身を案じたドラコは、ボンドにテレサと結婚してくれるよう頼み込む。ボンドはこの機会を利用し、ドラコからブロフェルドの情報を得ようとするが、いつしかテレサ(トレーシー)に本心から惹かれてゆく。

OPテーマ:On Her Majesty’s Secret Service

レビュー
 恐らくボンド映画の中で最も議論され、賛否が分かれる「女王陛下の007」。ギャラ問題で降板となったショーン・コネリーに代わりジェームズ・ボンドとなったのはジョージ・レーゼンビーだ。オーストラリア出身のモデルで、俳優としては今回がデビュー作品となった。彼の撮影エピソードは書くに事欠かないのだが、それはあくまでスクリーン外の話である。純粋に映画として楽しめるかどうか、という点でレーゼンビーは十分及第点だったことを、まず最初に述べておこう。ショーン・コネリーという巨頭を前によく健闘したし、それは近年再評価されていることにも表れている。諸事情で彼がボンドを演じた作品が今作のみなので、少々レビューが長くなってしまうのはご容赦願いたい。

 さて「女王陛下の007」は「ドクター・ノオ」の項でも少し触れたようにボンド作品の中では異色だといえる。奇抜な秘密兵器が登場しない、主題歌がインスト、そして何といってもボンドが結婚をする驚きの展開が他に類を見ない。ただボンドが結婚というストーリーはしっかりと原作に準じているし、後年のカジノ・ロワイヤルにおいても本気の恋愛をするボンドが描かれている。ボンドという人間が国家に殉じるだけの冷徹なエージェントではないことがわかる大切なエピソードだ。それにしてもボンドが結婚!?とド肝を抜かれた人は多いだろうが。

 異色たる所以は他にもある。迫力を出すために多用されすぎた低速度撮影アクションや、ボンドがスペクターに次ぐ犯罪組織の頭領ドラコと手を組むなど他のシリーズでは見られない要素が満載だ。まさにボンド映画から脱線している、という見解は概ね正しい。興行収入を見ても観客に受け入れられなかったことは明らかだ。では果たして「女王陛下の007」が駄作か、と問われればそうではない。まず全編に亘る大掛かりなアクションシーンは見ごたえがかなりある。レーゼンビーの長身が繰り出すキレた格闘、ボンド自身は運転しないものの赤いフォード・マーキュリー・クーガ・コンバーチブルが失踪するカーチェイスは迫力たっぷり。そして目玉であるスキー、ボブスレーの逃走、追走劇は今見ても手に汗握るものがある。音楽も素晴らしく、本作のテーマソングを「ここぞ」という場面で使い、見ている者を高揚させる。挿入歌にはルイ・アームズトロングを使う力の入れようだ。さらに140分という長編ながら中だるみが無い稀有な映画であり、正直「007」の名を冠していなければ上映当時の評価も変わっていたと思われる。

 しかし、やはり69年映画。今見るとツッコミたくなるような場面も多々ある。まず本作でも立ちはだかる犯罪組織スペクター。なんと今回は「007は二度死ぬ」に続きブロフェルドと直接対決となる。が、ブロフェルドはボンドの顔を覚えていない。対面したときに気付いていないフリをしていたと思うかもしれないが、実はそうではない。原作の時系列で言えば「007は二度死ぬ」の方が後に来るので顔を知らなくて当たり前なのだ。ただ僕のように映画だけを追っかける人にとって、そんな事情はわかるはずもなく「おいおい悪事に忙しすぎて記憶が混濁しているのか」と失笑を禁じ得ない。またスキー、ボブスレーのシーンも何とブロフェルド自身がボンドを追いかけ追い回されるというのだから驚きだ。組織のトップがスキーを駆使して一諜報員と追いかけっことは、誰か止めてやれよと言いたくなる。また各シーンのカット割が多く見ていて疲労を覚えるのもいただけなかった。

 総評すると「女王陛下の007」は「007でなければ大成した映画」と言える。キャリアのないレーゼンビーのぎこちない演技は、もっと経験を積でいたら化けただろうしショーン・コネリーという前任者の存在が無ければ比較されることも無かった(加えてインナーマッスルを鍛え、泥臭い部分も見せられるようになっていればなおOK)。映画自体もショーン時代と差別化する試みが見られたが、そんなものは「ボンド映画の様式美」から外れていると、ファンから非難を受けた。なぜならその姿を築き上げたのが「ボンド映画」自身なのだから当たり前だ。何度も言うが本当にボンド映画であることが悔やまれる。僕もボンド映画としては好きになれないが、アクション映画としては好きな部類に数えている。

女王陛下の007
ボンドとブロフェルドの対峙。レーゼンビーは横顔が素敵だが、正面からはう~ん。ただ最後の悲しみに暮れるシーンはよかった。

女王陛下の007
少々破天荒なだけでボンド結婚!の割りにキャラが薄いボンドガール、テレサ(トレーシー)。もしかしたらボンドは、そんな素朴さに惹かれたのかもしれない。

ミリタリー
※ここでは007が使用した銃火器を中心に紹介します。全部挙げてたらきりがない!

ワルサーPPK(画像はPPK/S)

女王陛下の007

主演が代わっても相棒は代わらず。テレサ(トレーシー)に奪われるなど一々落ち着かない。もしかしたら劇中で一発も撃ってないんじゃないか?

スターリングMk.4(ジャックさんにご指摘いただきました)

女王陛下の007
ボンドが捕らわれたテレサ(トレーシー)を救出する際に使用した。イギリス発の短機関銃でバリエーションも豊富。調べると今後の007シリーズでも幾度か登場する。劇中でボンドには珍しい弾切れを起こしブロフェルドを仕留め損ねた。

以上。次回は「007 ダイヤモンドは永遠に」になります。





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2013年05月24日 Posted by ビスコ  at 19:00 │Comments(2)007

この記事へのコメント
トレーシー救出時に使ってたのはスターリングSMGですよ。
Posted by ジャック at 2013年05月24日 20:37
>>ジャックさん
ご指摘ありがとうございます!後ほど訂正させていただきますね。
今後もよろしくお願いします。
Posted by ナマチューナマチュー at 2013年05月24日 22:56
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