007 黄金銃を持つ男

あらすじ
イギリス秘密情報部にボンドの番号007が刻まれた黄金の銃弾が届く。それは「黄金銃を持つ男」の異名を持つ素顔が分からない殺し屋フランシスコ・スカラマンガからの抹殺予告の様に見えた。自ら調査に乗り出したボンドはスカラマンガの銃から発射された黄金弾からマカオへ向かい、そこでスカラマンガの美しい愛人、アンドレア・アンダースと出会う。
OPテーマ:The Man with the Golden Gun
レビュー
007史において燦然と輝く怪作。それが「黄金銃を持つ男」である。ボンドファンを一同に集めて、この映画の改善点を語らせれば恐らく夜が明けてしまうだろう。それくらい残念な映画だった。何が残念かと言えば、もう全てにおいて残念。ストーリー、演出、ボンドガール、何よりスカラマンガ演じるクリストファー・リーという名優を生かしきれなかったことが一番悔やまれる。
ボンドの宿敵であるスカラマンガは本作の良心だ。彼がいなければ、そもそも黄金銃を持つ男は公開していいレベルの映画か、というところまで論点が堕ちる。それほどの力を持った悪役である。

ボンドを見下ろす長身体躯、どこか哀しげな瞳、常にボンドよりも一枚上手で今作の狂言回しのように立ち居振る舞う様。殺しの美学と信念を持つプロとして立ちはだかる彼は、007歴代悪役の中で最もシブイ。
一方のボンドも負けていない。二作目にして、すでにボンドの貫禄を備えたムーアは好演している。特にテーブル越しに二人が互いの信念をぶつけあうシーンは見ているこっちも熱くなる。それが、それが(言わせていただくが)アホみたいな脚本でぶち壊しなのだから泣けてくる。
そもそも、この映画のコンセプトがわからない。コメディ?スリラー?B級カンフーアクション?つまりツギハギだらけなのだ。当時のカンフー映画ブーム(ブルース・リーは偉大なり)にあやかったボンドの格闘シーン。御丁寧に道着を着て拳法の真似事を披露してくれる。このシーン、いりません。カンフー後のボートチェイスとカーチェイスも地味で、肝心の見せ場である川を車で飛び越えるシーンも気の抜けた効果音で台無し。香港、マカオのオリエンタルな雰囲気も画面越しに伝わってこない、となると全てが茶番劇に見えてくる。
極端に言えばスカラマンガとの決闘に至るシーン以外全て不要。その尺を後半の決闘に回してほしい。具体的には、よくわからないお化け屋敷で撃ち殺されたスカラマンガが遺恨なく成仏できるくらいの尺。そう、スカラマンガが小島に構えた住居はオーシャンビューの好立地で内装もお洒落なのだが、なぜかお化け屋敷が内蔵されていて、そこが彼の死に場所となるのだ。その死に方もあっけないもので人形に扮したボンドに後ろから撃たれるというもの。不憫すぎる。
他にも協力者であるヒップ中尉が、何故最初から正体を明かさなかったのか。対ボンドに用意した用心棒はなぜ関取なのか。アンドレアは結局、スカラマンガの金庫にある太陽光エネルギ変換装置「ソレックス・アジテーター」を盗んだようには見えなかったのに、なぜ持ち出した後に殺されたという描写があるのか。ニック・ナックは歩幅や挙動が小さいから、一つ一つのシーンが長くなりがちでテンポが悪くなるというのをスタッフで誰も気がつかなかったのか。そして、なぜハードボイルド路線で打ち出さなかったのか!
プロデューサーを務めてきたサルツマンは黄金銃を持つ男で退陣。監督のガイ・ハミルトンも以後007に関わらなくなってしまった。理由は明言されてないが、この映画を見ればなんとなくわかる。もう一度弁護しておくが、ボンドとスカラマンガは何一つ悪くない。悪いのは時代、ということにしておこう。

ペッパー保安官(画像は死ぬのは奴らだ)は今作にも登場。カーチェイス中、無理矢理ボンドの相棒となる。本作のコメディ要素は彼だけでよかった。

ボンド・ガールとしては珍しく過去に面識のあったメアリー・グッドナイト。鼻の形が個人的にアウト。キャラクターも残念美人といった感じ。本当に残念の多い映画だ。
ミリタリー
※ここでは007が使用した銃火器を中心に紹介します。全部挙げてたらきりがない!
ワルサーPPK(画像はPPK/S)

久しぶりに発砲しました。スカラマンガを撃ち抜く最高の活躍。場所が場所ですが。
次回は「007 私を愛したスパイ」になります。