007 消されたライセンス
あらすじ
親友であるCIAのフェリックス・ライターの結婚式に向かう途中、「サンチェスが現れた」とDEA(Drug Enforcement Administration=麻薬取締局)の連絡を受け、ボンドとライターは現場に向かう。サンチェスはDEAが長年追っている麻薬王だったが、自身の人脈で固めた地元を離れてアメリカ領内に姿を見せたということは、二度とない捕獲のチャンスだった。
ボンドとライターは、サンチェスが逃走に使ったセスナをヘリコプターで釣り上げ捕らえ、スカイダイビングで花嫁デラが待つ教会に降り立った。
OPテーマ:License To Kill
レビュー
本作のストーリーは歴代のボンド映画の中でも珍しい部類に入る。女王陛下の忠実な僕であるボンドが任務を放棄して私怨に走るのだ。盟友フェリックス・ライター(当ブログではあまり取り上げなかった人物だが、いずれ彼に関したまとめ記事を書きたい)と共に長く追い続けている麻薬王サンチェスを捕らえ、新たな伴侶デラとの結婚式を挙げた直後のことである。金に吊られた捜査官がサンチェスを逃がし、その一味がライター夫妻の自宅を襲撃したのだ。
ボンドが駆けつけたときには、妻デラは殺されフェリックスはサメに手足を食べられ…と無惨な光景が広がっていた。怒りに震えるボンド。こんなにも感情を露わにしたのは初めてだ。こうして復讐劇がはじまる。
もちろんMI6の上司であるMはボンドの行動を容認できるはずもなく、殺人許可証を取り上げる。まさに「License To Kill」だ。ちなみにMがボンドを連れてきた場所はヘミングウェイ記念館。PPKを取り上げられる時「武器よさらば、か」と言うボンドが憎い。
ボンドはまず裏切り者の捜査官を殺す。フェリクッスの意趣返しだ。
サンチェスのビジネスパートナー「クレスト」。彼の死にざまはボンド映画史上で1,2を争うほどグロイ。全体的にハードな演出が目立つ本作においても強烈な印象を残した。こういった要素を嫌ったファンも多い為、消されたライセンスの評価は二分されている。
サンチェスの手下である殺し屋「ダリオ」。なんと本作で映画デビューした若き日のベニチオ・デル・トロなのだ!ユージュアル・サスペクツ、トラフィック、そして近年ではチェ・ゲバラと数々の映画で活躍しているデル・トロ。特にゲバラは痺れたなぁ…映画は長くて疲れたけど。
彼が本丸のサンチェス。ボンドの巧みな作戦で踊らされるも、残虐性や狡猾さがいい味を出している。サンチェスとの決着をつける際に、ボンドはライター夫妻からプレゼントされたライターを使う。そういう演出や伏線の回収が「消されたライセンス」の醍醐味だ。
もう少し内容について触れたいのだが、如何せん本作は長く中身が濃すぎる。山場の盛り上がりも異様で「ここで決着か!?」と思ったら一歩で逃したり。またボンドが自身の身分を逆手にとってサンチェスに取り入ったり、前半のクレストとの悶着を利用してサンチェスに疑念を持たせたり。とにかく集中して見ないと置いてきぼりをくらいかねない。つまるところ解説していたら前後編に分けなければならないのだ。もっとも冗長といえるような「ダレ」はなく緊張感を持続させる流れは見応えがある。もし時間に余裕があれば、そうお盆中なんかにガッツリ見るには最適な映画だ。
さて消されたライセンス、公開時の興行成績やハードすぎる内容から不当な評価を受けてきた。事実、次回作のゴールデンアイが製作されるまで5年以上の期間が空いてしまい、ダルトンボンドが不人気だというイメージすら付いて回った。しかしアクションは現実味を帯びながらも派手、ボンドが行き当たりばったりではなく綿密に作戦を立て遂行していく純粋なエージェントっぽさ(の割にエージェントの資格ははく奪されているが)など従来とは違った楽しみ方がある貴重な一本だ。
さらにQの活躍の多さも見どころである。水先案内人や運転手とボンドを前線でサポート。休暇ということで個人的に協力しているのだ。ボンドとQの奇妙な友情はこれまでにも垣間見えていたが、ここまでハッキリ見せてくれるのは嬉しいファンサービス。もちろん秘密兵器もバッチリ登場。歯磨き粉チューブ型爆弾にカメラ型狙撃銃。そしてQが使ったほうき型通信機。
以上のことから個人的には消されたライセンス、ならびにダルトンボンドはかなり好きである。冷戦下最後のボンドという節目の作品でありながら、あまり陽の目を浴びる事がない映画だが近年では「女王陛下の007」のように見直されている傾向にある。次回作からキャストがQ以外一新で、残念ながらダルトンボンドは見納め。新生ボンドのフレッシュな幕開けと、旧時代の体制の終焉を味わった歴代史上最高にワイルドなボンドだった。
ボンドが最初に出逢うボンドガール・ルペ。サンチェスの情婦であるが、実際は彼に怯えて従っているだけ。ボンドと協力し愛を告白するも最後はなぜか大統領とくっつく。もう一人のボンドガール・パメラの噛ませ?
そのパメラ。元陸軍パイロットという経歴の持ち主でフェリックスの協力者であった。すぐにやきもちを焼くが、美人だから許せる。最後はプールでボンドと結ばれる。中々ロマンチックだった。
ミリタリー
※ここでは007が使用した銃火器を中心に紹介します。全部挙げてたらきりがない!
タウルス PT92
ブラジルのベレッタ。フェリックスが所持していたのを借用。セーフティレバーの位置やグリップの形状が本家と違う。粗悪なコピー品ではなく、高品質なライセンス生産モデルだが知名度は低い。にしても、ベレッタや1911といったアメリカ的なオートマチックピストルが似合わないなボンド。
ベレッタsM950
パメラの物を借用。初期に使用していたベレッタ M1934 よりもさらにスケールダウンした護身用銃。かなり小さい。パメラはその魅惑的な太ももにホルスターを付けて忍ばせていた。いわゆるシングルアクションで殺傷力も低く戦闘には不向き。
以上。次回は「007 ゴールデンアイ」になります。