007 オクトパシー

あらすじ
ボンドは中南米某国のトロ将軍に変装し、将軍が管理する高性能偵察機を破壊すべく侵入する。本物の将軍に見つかり一旦は拘束されるが、CIA女性アシスタントのビアンカの誘惑で敵兵を惑した隙に超小型ジェット機(通称:アクロスター)で逃走。地対空ミサイルに追尾されるものの、前述の偵察機の格納庫内をすり抜けた直後にミサイルが格納庫を直撃、結果的に任務に成功する。
その頃、東ベルリンでピエロに成りすましサーカス団に潜入していた009は『レディーの卵(ファベルジュの卵)』(ロシア皇帝献上品)を持ち出したのを見つかり、投擲ナイフを特技とする双子の兄弟ミーシカとグリーシカにやられ、ベルリン英国大使館公邸に『卵』を持ち込み死亡する。
OPテーマ:All Time High
レビュー
オクトパシーを迎える頃、ムーア=ボンドは円熟期に到達した。同時期に上映された「ネバーセイ・ネバーアゲイン」(コネリーが再び演じた007。イオンプロダクツとは無関係)を凌ぐ興行を収めたのは、製作会社の云々は抜きにしてもムーアがボンドとして確固たる地位に到達したことを物語っている。

しかし円熟期ともなれば当然のように、衰退に差し掛かる。この場合、ムーア=ボンドのマンネリ感よりもむしろロジャー・ムーア自身の老いによるところが大きい。色香漂う英国諜報員を演じるには少々厳しい50代半ば。スタントアクションも目立つようになり、遠望でのシーンでは「これムーアじゃないだろ!」とはっきり見て取れるのが悲しい。そんな高齢ボンドに用意されていたシナリオは、007史上初と言ってもいい東西冷戦の直接対決だった。
オクトパシーが上映された80年代前半のソ連社会主義に陰りが見え始め、肥大化しすぎた軍隊が縮小・解体へ向かい始める頃。駄目押しとなるアフガンでの悶着を前に傾き始めた台所事情は、映画の世界でも取り上げられた。登場する敵役の一人オルロフは、そんな時代に取り残された強硬派のソ連将校だ。オルロフはオクトパシー(ボンドガール及び多角事業団体)をスケープゴートにして富豪カマル・カーンと共謀、核爆弾を使った米軍基地の爆破を企む。米軍基地での事故に見せかけ、西側諸国の不信感を煽ろうとしたのだ。
宝石の密輸事件に端を発してから核爆弾までの流れは非常に丁寧で無理のない運びは安心して見る事が出来る。
ボンド→宝石事件に絡むソ連将校の陰謀を阻止する。
オクトパシー→カーンらと協力して移動サーカス団を運営しながら宝石の密輸をする。

オルロフ→移動サーカス団を利用して米軍基地に核爆弾を潜り込ませる。

カーン→オルロフを支援しつつオクトパシーを裏切り、米軍基地の爆破を担う。
と、それぞれの役割もハッキリしていてわかりやすい。破綻した部分も少なく、よく練られているなぁというのが一番の感想だ。
秘密兵器も相変わらずユニークなものが揃っている。「強酸仕込みの万年筆(盗聴器受信機能アリ)」「探知タイプとTVウォッチタイプの腕時計」「ワニ型一人用潜水艇」と実用的なのか疑問が残るものの、すべからく活躍している。しかし僕が一番気に入っている秘密兵器シーンは、終盤でボンドとQが熱気球に乗ってくるシーンだ。前述のTVウォッチを流用した液晶画面搭載で、気球部分はユニオンジャックの柄が施されている。カマル・カーン一味と戦うオクトパシーの美女軍団を助け、彼女らにチヤホヤされているQが満更でもないのが面白い。

全体の構図がスムーズである一方味気ない部分や反対に味が濃すぎる面もある。例えば滅多に変装をしないボンドがピエロに扮して顔を白塗りするシーン。二枚目のボンドがやるからこそ諜報員としてのプライドが伺えるのだが、そこに至るまでにヒッチハイクに失敗する、おばちゃんに公衆電話を先に取られる、パトカーに追いかけまわされるというトラブルに見舞われて情けない事この上ない。その前にもターザンやったり敵に追われて間一髪のところで観光団体に助けられたり。正直、今作のボンドはあまりカッコ良くないのだ。

前述のオクトパシーの美女軍団も曲芸のスペシャリスト揃いなのだが、屈強な兵士たちが銃を持っていながら一方的にやられる様はコメディである。終盤の山場のはずがなんとも間抜けな画になってしまった。ソ連と西側の関係がガラリと変わりそうなハードな展開が風呂敷として広がられているため、余計にそう見えるのだろう。

オクトパシーで語るべき部分は、このくらいだろうか。あまりにも無難すぎて何も言うことがなくなってしまう映画、と受け取られると困るが半分は事実だからしょうがない。癖のある敵役でもいれば別だろうが、どれもパンチが足りない。マネーペニーの助手として登場したペネロペも本作限り。新しいMの活躍も少なく顔見せ程度。正直オクトパシーが一番レビューに困った。ユア・アイズ・オンリーから時間が空いたのもそのためである。かと言って駄作では無いのが難しいところ。つまり映画として無味無臭で「微妙」なのだ。
余談だがオクトパシーというタイトルは「タコ」以外にも意味があり、女性は口に出す事を躊躇うだろう。事実、オクトパシー役のモート・アダムスはこの名前を嫌がった。

敵の一人「ゴビンダ」はラストまでボンドを苦しめるカーンの手下。強敵のはずなのだが影が薄い。ほとんどスタントアクションでしかボンドと絡まなかったからだろうか?

ボンドガール最年長のオクトパシー。演じるモート・アダムスはオクトパシーを含めた計3作で登場する。極めて異例なことだ。なお本作では珍しくボンドガールが誰も死なない。
ミリタリー
※ここでは007が使用した銃火器を中心に紹介します。全部挙げてたらきりがない!
ワルサーPPK(画像はPPK/S)

登場は少なく、紛失した事をQに伝えた。
ワルサー P5

PPKの代わりに用意された。西ドイツ警察正式採用拳銃であることから、映画の中で冷戦下を象徴する役割も果たしている。系統でいえばP38の後継にあたり、PPKよりも大きい。それでも小ぶりには違いない為スパイ用の銃としては違和感がないと思う。
AK-47

説明不要の世界的歩兵銃。数々のコピー機が作られきたのは実績の証であると同時に内部機構のシンプルさを物語っている。強靭で環境に左右されにくく、それにまつわるエピソードに事欠かない。未だに紛争地域、共産圏などで運用されている。ボンドが敵の兵士から奪って使用した。意外かもしれないが007でカラシニコフが登場したのは本作が初。
以上。次回は「007 美しき獲物たち」になります。