007は二度死ぬ

あらすじ
アメリカとソ連の宇宙船が謎の飛行物体に捉えられるという事件が起こり、米ソ間が一触即発の状態になるものの、イギリスの情報機関である MI6 はその宇宙船が日本周辺から飛び立っているという情報をつかむ。その情報の真偽を確かめるために、ジェームズ・ボンドがMI6により日本に派遣されることになる。
OPテーマ:You Only Live Twice
レビュー
ジェームズ・ボンドはその長い歴史の中で幾度か迷走する。その迷走第一弾なのが今作「007は二度死ぬ」だ。タイトルはどこかミステリアスで、サスペンス調。しかも舞台は日本ときたら期待値は上がるというもの。しかし蓋を開けてみると荒唐無稽なSFアクション映画というのだから、その層はミルフィーユよりも複雑だ。
この映画はツッコミ所に溢れている。ここに挙げるとキリがないくらいだが、どうしても言わせていただきたい部分だけ述べよう。
まず出だしからぶっ飛んでいる。宇宙にて飛行する米ロケットを未確認物体が鹵獲するシーンだ。船外活動を行っていた宇宙飛行士はロケットと命綱で繋がれていたのだが、鹵獲された際ロープが千切れてしまう。その時の効果音が「キュポン」である。「キュポン」って…栓を引っこ抜く場面以外で初めて聞いた。
その後舞台は移り香港で任務を行うボンド。ベッドがくるん→マシンガンがドバババッ(想像してお楽しみください)、と偽装するために死んだフリをするのだが、往年のスパイのやり口として疑問を抱いてしまう様な死に方だ。いや、これはまだいい。問題はその死を新聞にて公表したことだ。MI6の諜報員という立場上、公表するものではないはず。敵(今回もスペクターなのだが)を欺くといっても、こんなバレバレのフェイクに誰がかかるというのか。
そんなこんなで日本に来て相撲を観戦して、日本の秘密警察のトップ・タイガー田中(名優・丹波哲郎!)に出会い、彼の協力の下に大里化学本社という名のホテルオークラへ潜入、「ニンポー(忍法)」という船を巡って追いかけっこしたり捕まったり。その後生還したボンドは火山口を捜索、そして姫路城で忍者の修行(3日ほどのスピード講習)をして海女と偽装結婚、未確認物体が格納されている秘密基地へ向かう。色々省いて書いたのだが、これだけでもツッコミ所が目白押しだ。
そう、この映画には忍者が登場する。誤った日本への認識が生んだ喜劇だ。しかも忍者とは名ばかりで実際は空手、剣道、そして銃火器の訓練に明け暮れている。申し訳程度に手裏剣を練習しているが、劇中で実戦に用いたのは訓練描写の無かったボンドとタイガー田中いう変化球。最終決戦でも忍者軍団は銃撃戦に終始していた。忍べよ。
極めつけは日本人に変装するボンド。カツラを被ってホリを埋めただけで溢れ出る英国紳士の香りはごまかせるはずもない。しかし、それ以上に変装した意味が全く無いことが問題だ。変装後に暗殺されそうになるし、火口基地に潜入する際も海路を使い人目につかないから見た目は関係ないし…スタッフの悪ノリとしか思えない。面白いからいいけど。
とんでも内容に目が奪われがちだが、何と本作でスペクターの頭領ブロフェルドが素顔をお披露目。右目のキズが無ければ人の良さそうなオジサンだが、今後もボンドと敵対する宿敵としての貫禄はある。そもそも今回のスペクターの目的は「米ソの宇宙ロケットを秘密裏に鹵獲し、両国に疑心暗鬼を持たせ戦争を引き起こす」というもの。その鹵獲用宇宙船を日本から打ち上げていたのだが、ブロフェルドが日本にいる必要性が感じられない。組織のトップなのに重要な案件をだから、と自ら陣頭指揮する。前作のラルゴもそうだが、一企業としてスペクターは理想の職場のような気がする。無論、命の保障がない点を除いて。
ボンドが運転しないボンドカー「トヨタGT2000」もさることながら、Qの秘密兵器「リトル・ネリー」がいい味を出しまくっている。小型のオートジャイロなのだが、機銃・ロケット・投下爆弾・火炎放射器と小ぶりな機体に似合わない装備が搭載されていて、一体どうやって飛行しているのか疑問だ。さらに問題なのは燃料である。本土から飛び立って離島を回遊したのちに敵と交戦して帰ってくるスタミナには驚かされた。Qの発明品の中でコレが一番凄いんじゃないだろうか。組み立ては手動だし。
全編にわたり和と洋の文化が殴り合いの喧嘩をしているような映画だが、ネタとして相当楽しめる。ボンド映画は「名作」「ネタとして笑える迷作」「ネタとしても笑えない怪作」に大別されている、というのが僕の持論だ。そこに来て「007は二度死ぬ」は、いつ見ても笑えるネタ映画として話題に事欠かない。正直、今回のレビューだって書き足りないことだらけだ。
そもそも前作までのシリアス寄りの路線は、当時の映画志向からやや時代遅れとなってしまっていた。世間は痛快活劇を求めていたし、ボンドとて商業作品なので逆らうことはできない。また興業的にも前作以上のスケールで展開する必要があった。宇宙や火山を舞台にした事で技術が伴わず、SFチックな割に滑稽な映像や演出だったのもそういった事情があるからだ。ボンドが本作において、これまで以上にジョークを飛ばすのも時流に乗ったことに過ぎない。イアン・フレミングの原作でも日本が曲解された姿で登場しているあたり、むしろ映画的に解釈した演出を盛り込んでいる秀作とも捉えられる。
普段あまり変装しないボンドが漁夫になったり浴衣を着たり袴姿になったり、片言の日本語を喋ったりと一々見所がある本作。ショーン版ボンドはこれを期に斜陽化していくのだが、「007は二度死ぬ」そして後にの「ダイヤモンドは永遠に」のユーモラスなボンドが後年のロジャー・ムーア版ボンドに多大なる影響を残し、見事ボンド映画は返り咲くこととなる。なるほど、駄作の一言で片付けられない魅力があるのもまた事実だ。日本人にこそ見て、笑ってもらいたい一品である。ちなみに海外ではこの映画、どういう扱いなんだろう…。

本作の真打ボンドガールであるキッシー鈴木。「なぜか劇中でほとんど名前を呼ばれない」「海女である」「火口基地へ乗り込む際にビキニ」と、歴代ボンドガールの中でも色物臭が半端では無い。出会った頃はボンドを拒絶していたものの、最後はしっかり男女の関係になったようで良かった良かった。
ミリタリー
※ここでは007が使用した銃火器を中心に紹介します。全部挙げてたらきりがない!
ワルサーPPK(画像はPPK/S)

ブロフェルドが「この銃を使う男はただ一人。ジェームズ・ボンドだ」と言うあたり、かなりボンド=PPKというのが知れ渡っている模様。それでいいのかスパイ?今作でも中盤までの活躍なのだが、発砲回数は今までで一番多いのではなかろうか。
RSAF エンフィールドNo.2

火口基地で敵から奪ったダブルアクションのリボルバー銃。この銃はウェブリー&スコット社のウェブリーMkVIをパクって、裁判まで起こされたというのだから権利問題がカオスなボンド映画と相性は良さそうだ。意外?にもボンドがリボルバー銃を扱うのはこれが初めて。木製グリップとシンプルな銃身がいい味を出している。
以上。次回は「女王陛下の007」になります。
ロケ地が地元鹿児島なんであのシーンはこの場所だとかそんな楽しみ方も有ります。
ちなみに島から火口基地までの距離ですが、坊津の秋目という所の沖にある島から霧島連山までの移動なんで徒歩で行ける距離じゃ有りません(笑)
この坊津の秋目には007の記念碑も有りますよ。
記念碑があるんですか!?是非行ってみたいです。白ビキニを彼女着させてw